北九州小倉の繁華街、京町銀天街。昨年6月、この商店街に小さなうどん屋さんがオープンしました。北九州由来の肉うどんを食べさせてくれるお店、『よもぎうどんだるま家』さんです。オープンして間もなく、お店の開店準備の様子がNHKのドキュメンタリーとして放送され、話題になりました。
お店の店主である中本さんは、北九州を根城に勢力拡大してきた特定危険指定暴力団、『工藤會』の元幹部。恐喝未遂容疑で逮捕され、人生二度目の獄中でヤクザ稼業に嫌気が差して離脱宣言。五十歳で出所し、カタギ生活に入りました。
離脱しても、すぐに一般人と同じ生活が出来る訳ではありません。離脱から5年を経過しないうちは、「暴力団員等」として見做され、一般人であれば享受できる権利のほとんどを剥奪されます。銀行口座が作れない、保険加入出来ない、賃貸契約が結べない等々。
この「元暴5年条項」により、離脱者の8割は、まともな社会復帰が出来ていないと見られているのです。そのような逆境下で、中本さんは数少ない一般人の協力を得て、出所一年後にうどん屋さんをオープンさせました。NHKが彼に興味を持つのも頷けます。その様子は、今夏発売の『ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。極道歴30年中本サンのカタギ修行奮闘記(廣末登著/新潮社刊)』でも知ることが出来ます。
この本を読むと、実は現在の中本さんの我慢強い下地は、ヤクザ時代、親分の元での「側近経験」で培われた事が伺い知れます。この親分というのが、非常に厳しかったようで。外野にとっては笑い話ですが、日常生活の中でワザと理不尽な指示をするのです。親分は絶対の存在ですから、従わないわけにはいきませんが、そこでイイ加減に済ませたりキレたりしたら、親分との信頼関係は損なわれ、只のチンピラに成り下がる。
世の中理不尽だらけ。自分を抑え、自分と闘って克服する事も必要だと知る訳です。権利が享受出来ないマイナスからの起業こそ理不尽ですが、かつての親分の教えが、彼を強くしているのでしょう。
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