第52回『経営万事塞翁が馬で40年!八女の蜂屋さんの商売哲学』

 今回は(株)九州蜂の子本舗の田中義照社長にご登壇頂きました。氏が国産蜂蜜販売の会社を起業したのは30歳の頃。当時から国産蜂蜜は希少品でしたが、今ほど注目はされず、決して順調な船出ではなかったそうです。純粋蜂蜜の素晴らしい効能や美味しさを知らしめたいその一心で、ひたすら全国を行脚する日々。飽くなきトライアンドエラーに挑み続けた経験は、氏の時代感覚とマーケティングを研ぎ澄ませました。

 

 田中氏が、八女の蜂蜜一本に特化して商売を続けてこられたのには理由があります。起業を決心する契機ともなった、ある養蜂家との出逢いと深い絆。青木養蜂場の三代目、故・青木勇彦氏。周囲が感嘆するほどの熱心さと天性の勘、そして緻密な分析による養蜂技術を有していた人物です。二〇も年長の青木氏でしたが、彼の蜂蜜をなんとしてでも世に広めたいと、田中氏は強く心に誓いました。

 

 青木氏も、田中氏の気持ちに強く応えました。彼の起業を失敗させてはならない。周囲から「青木との出逢いは悪縁だった」と言われないよう、最大限の努力をする。共同事業を決めた時から、好きな煙草をきっぱりやめたそうです。

 

 青木氏は、豊かな知識や哲学を、徹底的に田中氏に伝えました。一方的に伝えるのではなく、考え方をも促しながら。田中氏が「私の言葉の九割は青木の言葉」と語るほど、青木哲学は氏の人生に深く浸透します。「いつの間にか商売が、商道になってしまいましたね。」という言葉が印象的でした。

 

 卸販売から始まった事業ですが、現在は主に四つの観光地を拠点とする直営店舗とネット販売で、売上シェアの八割以上を占めます。これも時代の流れを巧みに読み取り、変化に対応していった結果でしょう。そして、これからの田中氏が目指す十年。蜂蜜やミツバチの魅力・貢献を世の中に知らしめるための新たな挑戦は、既に構想段階に突入しています。