家業を企業へ。企業を産業へ。超巨大流通網創業者の『あしあと』(前編)

 

日本を代表する巨大流通小売業イオン(AEON)。国内外260余の企業で構成される流通グループで、その売上総収入は8兆円と云われています。今回と次回は、そのイオンの精神的礎を築いた女性経営者の評伝をご紹介します。

 

小嶋千鶴子は、イオン創業者・岡田卓也(現イオン名誉会長)の実姉であり、かつ自らも、前身の岡田屋・ジャスコ時代を通じて、組織の近代化と「経営人事・戦略人事」を主導した、専門経営者のカリスマとも云われる人物です。卓也も自身の著書の中で、「姉、千鶴子がいたからこそ、現在のイオンの繁栄があることは間違いありません」と述懐しています。

 

『イオンを創った女 評伝小嶋千鶴子(東海友和著/プレジデント社刊)』は、彼女の側近であった著者が、当時、経営の最前線で奮闘していた彼女の日々の言動から学んだ教えと、彼女自身の著書『あしあと(社員のみが読める非売品)』をもとに、その経営哲学と、組織成長の軌跡を綴った本です。

 

三重県四日市の老舗、岡田屋呉服店の次女として生まれた千鶴子は、相次いで両親と姉を病気で失い、二十三歳で家業を継ぎます。十四歳の卓也をはじめ、弟妹の母代わりをしながら、持ち前の負けん気と向学心で、瞬く間に経営と番頭格を掌握していく千鶴子。その総ては、将来の跡継ぎである卓也に礎を残すためのものでした。

 

終戦の混乱期を千鶴子の機転で乗り越えた岡田屋は、成長した卓也を社長に据え、飛躍の時期を迎えます。卓也が営業戦略を、千鶴子が組織構築を主に担いました。

 

時代と消費者は、小売業に新たな変革を求めていました。価格決定権をメーカーから小売主導へ。いわゆる流通革命です。千鶴子と卓也は敏感にその要請を感じ取り、早くから三重近郊都市圏の有力小売業との業務合併を繰り返すことで規模を拡大。しかし、合併による企業風土の再構築は、大変な困難を極めました。千鶴子の本領が試されます。(後編に続く)