平凡な町ネズミの冒険譚。ガンバに見る、リーダーシップの条件。

今年は子年ですね。

ネズミのキャラクターといえば、十中八九、「ミッキーマウス」の声が聞こえてきそうですが、私にはもう一匹、気になるネズミのヒーローがいるのです。75年にテレビ放映されたアニメ番組『ガンバの冒険』の主人公、ドブネズミのガンバです。

 

当時の私は小学校中学年でしたが、毎回楽しみに観ていた記憶があります。この年齢になって、物語の筋書きはほとんど覚えていませんでしたが、印象として、ガンバの陽気さや頼もしさは記憶に残っています。そして、なんといっても忘れられない強烈な存在が、冷酷極まりない宿敵、白イタチのノロイです。子ども心に、震えあがりながら観ていました。

 

この作品に原作があることを最近知り、正月の三日間、ヒマにまかせて読みふけりました。『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間(斎藤惇夫著/岩波少年文庫刊)』という作品です。72年に発表されて以来、多くの子どもに読み継がれ、いまや日本児童文学の金字塔的な作品と見られています。大人が読んでも、一読に値するテーマ性を保った文学作品でした。

 

ガンバは、今の生活に満足している町なかのドブネズミです。「大きくて広い」世界に憧れながらも、快適な棲み処から出ていくことはありません。そんな彼がふとしたことから、海の向こうの孤島で、絶滅寸前の島ネズミたちを救う冒険に出るのです。島で待ち構えているのは、たくさんの凶暴なイタチとその首領。白イタチのノロイ。

 

ガンバは、15人の仲間たちの協力を得て、残存する島ネズミを結集し、共に生き残るための、最後の熾烈な戦いに身を投じます。

 

ガンバは、仲間を想う義侠心が強く、勇気や行動力もありますが、戦いに必要な知識や能力は、ほぼ持ち合わせていません。彼はなりゆきのまま、救出作戦のリーダーに選ばれますが、適格な指示を出すのに苦労します。けれども、仲間たちは彼をリーダーとして、支え続けるのです。

 

ガンバの、同胞の救出に掛ける篤い真心を聞かされ、それを行動で示した彼に心打たれたからこそ、仲間たちは彼を認めています。リーダーシップに最低限必要なものとは何なのか、それを思い知らされる作品です。