緊急事態宣言に思う。今、私たちが持つべき「人心の正気」とは何か?

去る4月7日、安倍内閣は国民に対して、新型コロナウイルス感染症の拡散を防止する目的で、緊急事態宣言を発出しました。演説では、何度も「(日本経済における)戦後最大の危機」という表現が使われ、まさしく国難の渦中にある事を再認識させられるとともに、国民一人ひとりの社会的責任意識の在りようが問われているように感じられました。

 

冒頭で「国難」という言葉を使いましたが、それで思い出した人物がいます。江戸幕末期の思想学者で、水戸藩主徳川斉昭の腹心として藩政改革を指揮した、藤田東湖です。水戸藩の内政だけでなく、当時の国政に対しても大いに懸念を主張し、それが「尊王攘夷」思想の先駆けとなって、全国に彼の名を轟かせることになります。吉田松陰や西郷隆盛をはじめ、彼を慕う志士は多かったそうです。

 

その東湖が遺したと伝えられる言葉に、こんな文言があります。

「国難襲来す。国家の大事といえども深慮するに足らず。深慮すべきは人心の正気(せいき)の足らざるにあり」

 

ここで示されている「国難」とは、1853年の黒船来航事件を意味しています。米東インド艦隊の司令官ペリーが、4隻の艦船を率いて浦賀に入港。幕府に開国を促す親書を手渡しました。異国の巨大な軍艦が突如出現したことに、当時の日本は上を下への大騒ぎ。その様子を見て、東湖は「考え過ぎることはない。相手の都合で来たものを、とやかく言っても仕方がない」と、世間の大騒ぎをたしなめます。

 

さらに「深慮すべきは……」と言葉をつなぐのですが、この部分の解釈は結構むずかしいですね。「正気」とは、辞書によると「天地の間にあると考えられる、おおらかで正しい、公明な気力。また、人間の正しい意気・気風」とあります。いろいろ調べてみると、このような解釈が見つかりました。「深慮(憂慮)すべきは、日本人が正しく生きず、その日暮らしで他人任せ。日本の将来に対して、自分事としての関心や使命感を持てていないことである」と。当時の日本人全般に対する、東湖の深い憂慮が感じられる解釈ですね。

 

さて、現在のコロナ騒動における日本人の行動と気の持ちようを見て、東湖ならば、なんと言うでしょうか。「相変わらず、その日暮らしで他人任せ」と、厳しい口調で叱られなければよいのですが。