このコロナショックにおける自粛期間中、興味深いオンラインでの催しが、いくつもネット上を賑わせていました。
福岡を拠点に『光冷暖システム』等の事業を全国展開されている起業家の二枝たかはる氏が、ご自身の豊かな人脈の中から、様々な著名人と対談する番組『タリックの部屋』もそのひとつで、私が拝見した5月19日の回では、博多一風堂の創業者で、株式会社力の源カンパニー・ファウンダーの河原成美氏がご登壇され、コロナショック状況下の心境を語られました。
ちなみに二枝氏と河原氏は三十年来の友人で、ともに飲食業を営まれていた頃から、お互いのことをよく知る間柄のようです。
現在、河原氏が率いるラーメンのグローバルブランド『一風堂』は、国内150店舗と海外14カ国125店舗を展開しています。
一風堂が海外展開を発表した折り、あるインタビュアーが「博多の味を海外で守れますか」と氏に尋ねました。氏はこう答えたそうです。「なんで守らないかんと?」。
その言葉通り、氏は欧米や東南アジアでの出店に際して、その土地に根差した文化や風土を尊重し、ラーメンに改良工夫を施してきました。「元の味を守るのが職人の腕だと思われているが、本当の職人であれば、もっと考えて、もっと表現していかないと」。思考停止を嫌う氏の姿勢は、「変わらないために変わり続ける」という一風堂の理念にもよく表れています。
河原氏には、ずっと大切にされている言葉があります。「正念場」という言葉です。一般的には「ここぞという大事な局面」を指しますね。
中川一正翁という書の大家の作品に、この言葉を揮毫したものがあります。二十年前、美術館でその作品に出逢った氏は、衝撃を受けたそうです。書の横に「九七翁」とあったからです。97歳の先達でも、まだ覚悟を決めようとしている!自分はまだまだこれからだが、もし今後事業に失敗したとしても、その時はこの書のもとに戻ってこよう。この思いがあれば、いつでも再出発できる、と。
余談ですが、河原氏はその数年後に、論語の大家として有名な伊與田覚氏と同席する機会を得ます。河原氏はその際、自身が好きな言葉である「正念場」について、本当の意味するところはなにかをお訊ねされたそうです。
伊與田氏曰く、「正念場の『正』は一(いち)を止めると書く。要するにこれは『今』や。『念』もそう、今の心。『場』はあんたの足もと。覚悟を決めるとか、大上段に構えた解釈もあるが、本当は『今、今、今』。今しかないということ」とお答えになられたのだとか。
なるほど、河原氏のメッセージには、随所に「今この時」「今なにをするかが大切」というニュアンスが強く感じられましたが、これは中川翁や伊與田氏から受け継いだ哲学もあるのかもしれませんね。
国内外の店舗において、強烈なダメージを受けた一風堂。
河原氏は今後の展開について、「一から作り直す。新たな環境を時代が与えてくれた。自分の真価を発揮する。思いを共有する仲間がいれば、前に進める」と語られていました。世界の一風堂が挑む、「新たなる食の表現」に注目しましょう。
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