今回は少しだけ肩の力を抜いて読める本をご紹介します。
いまだに外国旅行が難しい昨今ですが、この本は、フランスはパリの街なかの様子や空気感、そこで生活する人々の息づかいに満ちています。ちょっぴり旅をしたような読後感が楽しめる一冊です。
その本とは、『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々(ジェレミー・マーサー著・市川恵里訳/河出文庫刊)』。著者のマーサーはカナダ人です。物語の舞台は、西暦2000年、ミレニアムを迎えんとする年末のパリからはじまります。
マーサーは、当時20代後半の若者。
カナダで犯罪専門のニュース記者をやっていましたが、自分の不徳でトラブルに巻き込まれ、命の危険を察知してバリに逃れてきた青年でした。
いまや職もなく、生活費も底を尽きつつあるマーサー。
霧雨が降る肌寒い日曜日、彼は目的もなく街なかを散策している途中で、一軒の風変わりな書店に立ち寄ります。それが、世界的にも知られた伝説の英語書籍専門店、『シェイクスピア&カンパニー書店』でした。
この書店のなにが有名なのか。
それは、世界中の物書き志望の若者に、一時期の生活の場として、店の一部を無料で開放する取り組みを、開業当時から続けていることです。間借りした作家の卵たちは、ここで作家修行を行いつつ生活をし、ほんの数時間、書店の仕事を手伝います。従って、店内の至るところに机があり、簡易ベッドがあり、原稿やタイプライターに挑んでいる住人たちの姿が見られます。
マーサーはその事情を知るや否や、天の救いとばかりに、すぐに書店の住人の一員となりました。この物語は、この書店で過ごした数か月の思い出を、さまざまな人間模様を織り交ぜて書かれたドキュメンタリーです。
1950年代に書店を開業した店主のジョージ・ホイットマンはアメリカ人。生粋の共産主義者で、若い頃は世界各地を旅してまわりました。旅の途中で、故郷ほど反共体質ではないフランスを気にいった彼は、この地で世界を変えようと試みます。その拠点が書店でした。開業当初から店を開放していた彼のもとには、著名人も含めて数万人の物書きが滞在し、書店をさらに有名にしていきました。
店内には、「見知らぬ人には冷たくするな 変装した天使かもしれないから」という言葉が、今も飾られているそうです。
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倉掛未加子 (土曜日, 27 3月 2021 10:16)
80歳になる友人が、今、とある
小学校の近くで自分の私財を投じて子供たちの放課後に集まる図書館を作ろうとしています。彼女にこの本をプレゼントします有益な情報を、タイムリーにいただきましてありがとうございます。感謝申し上げます
追立直彦 (土曜日, 27 3月 2021 12:37)
倉掛さん、コメントありがとうございます。80歳のご友人のチャレンジ、ご成功をお祈りしています。本のプレゼント、喜んでもらえるとよいですね!