春は、さまざまな物事のおわりとはじまりが、忙しなく交差しあう季節です。4月からの新生活に胸を弾ませている人も、たくさんいることでしょう。半面、見通しが利きづらい明日に、期待より不安を抱えて過ごしている人も。今回ご紹介する2018年公開の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない(湯浅弘章監督)』の主人公、高校一年生の大島志乃(南沙良)も、悶々として4月の入学の日を迎えます。
志乃は、人前で緊張するとうまく発音が出来なくなる、いわゆる吃音症を抱えています。新しいクラスメイトの前でちゃんと挨拶が出来るのか、吃音を変な目で見られることなく、仲良くしてもらえるのか、心配で仕方がありません。案の定、登校初日の自己紹介でひどい吃音をしてしまい、同級生から奇異の目で見られてしまいます。
誰にも声を掛けられず、お昼休憩もひとりぼっちで過ごしていた志乃に、ある日とうとう友人が出来ました。志乃と同様、クラスから浮いた存在の少女、岡崎加代(蒔田彩珠)です。吃音に同情することなく、素っ気なく接する加代に、安心感を抱く志乃なのでした。
加代は、志乃を自宅に招きます。ロック音楽が大好きな加代の部屋でギターを見つけた志乃は、彼女に演奏をせがみます。加代は、絶対に笑わないようにと、志乃に注文を付けました。
つま弾くギターに合わせ、歌を口ずさむ加代。しかし、その強烈な音痴に、志乃はおもわずクスリと笑いを漏らしてしまいます。実は、過去に仲間から音痴を笑われた経験があり、それが激しい心の痛みとなっていた加代。志乃の笑いに逆上し、強い言葉を浴びせかけて追い出してしまいます。
自分の痛みに寄り添ってくれた加代。
なのに、自分は加代の痛みにさらなる傷をつけてしまった。激しい後悔のなかで、志乃は加代に心から謝罪し、ふたりの間の絆は、さらに深まっていくのです。
志乃も、実は歌うことが大好きでした。
歌っている時だけは、なぜか吃音が出ないのです。その歌声に魅了された加代は、一緒にバンドをやることを志乃に提案。そして、秋の文化祭での発表に向けて、まずは路上演奏で度胸を磨こうと持ち掛けます。お互いの持ち味を生かして、未知の挑戦に臨む、ふたりのかけがえのない夏がはじまりました。
コメントをお書きください