今月は、スポーツ界からの明るい話題に世の中が沸き立ちました。池江璃花子選手の水泳日本選手権四冠達成と、松山英樹選手のマスターズ優勝です。コロナ禍であろうが、苦境の最中にいようが、努力を積み重ねて前進を続ける人たちがいる。大いなる勇気をもらいました。そして、そのような人たちは、私たちの周りにも少なからず存在しています。
昨年の3月末、私は東京に出張中でした。前日に仕事を済ませ、お客様と旧交を温めたあとは、上野のホテルに宿泊。翌日は飛行機の時間までの間、上野浅草界隈を散歩して過ごすことにしました。
東京近郊に住んでいた頃、よく足を運んだ浅草寺ですが、どうも普段の賑わいがありません。東京都が、新型コロナの「感染爆発の重大局面」であることを理由に、この日から不要不急の外出を控えるよう、都民に呼び掛けていたのです。寺の境内では桜が満開でしたが、愛でる人はまばら。饅頭屋のおばあさんは「こんなにきれいに咲いたのに、観てくれる人がいないんじゃねえ」と、桜のことをしきりに気の毒がっていました。
浅草は、日本の観光業の縮図とも云われます。長引くコロナ禍にあって、商いに苦しむ経営者の姿を、NHKが取材していました。先月放送された『浅草、遠い春を待ちながら~下町経営者と信用金庫』という番組。取材は昨年末、感染の第3波が懸念された頃から始まっています。浅草の賑わいと共に生きてきた老舗の「のれん」、そして、大切な従業員の雇用を守るため、社長たちは事業改善と金策に奔走します。彼らを資金面で支える信金マンも、「信金は地域から逃げられない」と腹をくくります。
先代から75億円の借金と共に会社を継いだ和菓子屋の社長は、「小さくしてでも残していく。やめたっていってやめらんない。この会社、自分の命より大事なんです。命いらないから、この会社を守る」と悲壮な胸のうちを明かします。
また、地域に根強いファンを持つ飲食店主は、「(先代から)人がいないと商売は出来ないんだよって言われ続けてきた。(苦しい時に)従業員を切ってまでっていう商売は考えない」と、従業員の雇用を守り抜く決意をあらたにするのでした。
伝統ある会社と従業員を守る重圧から逃げず、苦境に挑む経営者。その強さの奥底に何が潜んでいるのか、垣間見た思いがしました。
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