分断に支配された世界で、あらたな絆によって希望をつなぐ孤独な旅人の物語。

「他人の人生に影響を与えられないなら、人生なんて意味がない」。これは、ある偉大なメジャーリーガーの言葉です。

 

彼自身に対して投げ掛けた言葉なのでしょうが、かなりストイックに響きますね。でも、どんな人生であろうと、懸命に生きて、自分の為すべきことを果たすために努力していれば、誰にも影響を与えない人生などないのではないか。そう思ったりもします。人間は、そうやって不可思議に関係しあい、思いもよらない絆を編んでいく生き物なのだと。

 

今回ご紹介する映画『この漠然たる荒野で(ポール・グリーングラス監督)』は、南北戦争終結直後のアメリカを舞台にして繰り広げられる西部劇ですが、まさに、誠実な心根を持つ登場人物同士の人生が影響し合い、深い縁を紡ぎ出していく、至高の人間ドラマに仕上がっています。Netflix作品ですので、ご加入されている方は、そちらでご覧になれます。

 

米南北戦争が終結して5年が経過したテキサス。戦争の傷跡はいまだに癒えず、南北支持派同士の因縁もくすぶり続けています。人心は荒廃し、互いを信頼することよりも猜疑心が先だち、争いが絶えません。貧富、地域、人種や民族。様々な「分断」意識が支配するそんな時代。しかし、一方では新しい時代の気分を求めて、人々は貪欲に情報を求めてもいます。

 

物語の主人公、キッド大尉(トム・ハンクス)は、そんな人々に最新の新聞記事を読み聞かせる「講話会」を、アメリカ南部の街々を定期的に巡りながら、開催しています。入場料10セントで最新の世情が聞ける「講話会」は常に満員、会場内はたくさんの聴衆の熱気と好奇心に満ちています。

 

ある日、次の街に向かう途中で、キッド大尉は襲われた馬車の残骸に出くわします。付近の樹には黒人の死骸が吊るされ、「テキサスは白人の地だ」と書かれた張り紙が。

 

さらに大尉は、繁みに隠れていた白人の少女を見つけます。遺留品からは、先住民管理局の文書も。文面には、少女が先住民管理局に連れてこられた経緯が書かれていました。内容から、この少女が、討伐したカイオワ族のコミュニティで見つかり、保護されたことを知ります。

 

粗暴で、まったく言語を解さない少女。大尉は戸惑いますが、このままにはしておけません。その日から、少女を故郷に帰すための、ふたりきりの旅がはじまりました。