「相手の土俵に乗らない」戦い方。 弱者には弱者の流儀が必ずある。

先日、民事信託をテーマにした研修があり、参加してきました。講師は司法書士の先生。この制度を活用した事業分野で、現在最も実績を挙げている方のようです。

 

本題に入る前の自己紹介トークが面白かった。経営が軌道に乗るまでは、随分ご苦労されたとのこと。ただ法律家になりたい一心で、開業後のことも考えずに司法書士になられたのですが、現場に出てみたら、先輩方がうじゃうじゃ。司法書士の仕事は登記関係がメインで、人脈もコネもない自分には、まったくお鉢が回ってこない。

 

これはマズイということで、あわてて未だ手アカのついていない事業分野を探った結果、当時誰も注目していなかった、民事信託のビジネスモデルにぶち当たったのだそうです。登記にこだわっていたら、とっくの昔に命運尽きていた。そんなお話でした。

 

よく「相手の土俵に乗らない」という言葉を聞きますが、これはビジネスの新規参入者においては、特に大切な考え方ですね。資金も人脈もコネもない。参入障壁が低い業界で戦うには、「新しい視座」が必要になってきます。

 

山本周五郎(時代小説家、「赤ひげ診療譚」など多数執筆)の短編傑作に、『ひとごろし』という作品があります。物騒なタイトルですが、ユーモアを感じる肩の凝らない作品で、今回のテーマを考えるにはうってつけです。ちなみに江戸時代の実話が題材のようです。

 

越前家に代々仕える家柄の双子六兵衛は、自他ともに認める藩内随一の臆病者。家の外では呆れられ、内では妹になじられる毎日。挙句の果てに、私が嫁に行けないのは、兄上の臆病のせい、と言われる始末。

 

ある日、藩の剣術指南役が藩主寵愛の重臣を殺害する事件が起き、藩主は激怒して、家臣に上意討ちの沙汰を下します。剛腕の剣客に勝てる藩士は見当たらず、討ち手の人選に難儀していたところ、臆病者の六兵衛が自ら志願。嫁に行けぬと嘆く妹を思っての、無謀な決心でした。

 

出奔した剣客を追う六兵衛ですが、剣術で勝てる気など全然ありません。ところが、あることがきっかけで、自分の「臆病」が武器になるのでは、と奇想天外な作戦を思いつきます。さて、六兵衛は無事に上意討ちを果たせるのでしょうか?