長期化するコロナ禍において、私も人並みに悩むことが多々ありました。今でも悩みは尽きませんが、最近、自分のなかの「軸」とも呼べる「考え方や行動のルール」を整理したことによって、多少は楽になった気がしています。自分のなかのブレがちなルールを整理しようと取り組みはじめた矢先に、あるテレビドラマでの親娘のやりとりが、背中をあと押ししてくれました。
他界した妻(もしくは母親)のお気に入りだった包丁を研ぎに出すため、親娘は人形町の刃物屋を訪れます。創業二百余年の老舗は、軒並みそそり立つタワーマンションに挟まれて、小さく古めかしい佇まい。しばし感傷に浸ります。
帰り道、娘は父親に仕事の悩みを打ち明けます。新しい仕事の依頼があり、今現在、自分が良かれと考える仕事のスタイルを、変えなければならないかもしれない。父親は、刃物屋の女将を見習え、と言ったあとで、こう続けます。
「あの女将は、タワマンなんかが建って、周りがどんどん変わっていくからこそ、変わらない自分たちの店が一層目立つってことを分かっているのさ。周りの変化が、あの店の風格を作ってるんだよ。だからおんなじことを、手ぇ抜かないでやってりゃあ、商売はうまくいくってこと」
なるほどなあ、と思いました。
松尾芭蕉が遺した言葉に、「不易流行」があります。俳句を詠むうえでは、「変えてはいけないルール」と、「常に斬新な作風」が求められる、といった意味合いでしょうか。
これを人生に当てはめてみると、前者は、ブレない考え方・生き方の「軸」。後者は、状況や時代の流れに応じて、かたちを変えていかざるを得ない行動の「枠」。そんなふうに読み替えることが出来そうです。
サントリーの名物経営者として知られた佐治敬三氏は、この概念を、会社の経営にも積極的に取り入れました。社内に「不易流行研究所」などという組織を設立していたほどです。
時代の潮流が、目まぐるしく変化する現代、自分を見失うことなく泳ぎ渡るためには、どうやら必要な考え方のようです。
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