古い権威やさまざまな偏見と闘った、ふたりのオリンピック・アスリートの実話。

1896年に第一回が開催された近代オリンピックは、「スポーツを通じて平和な世界の実現に寄与する」という理念を堅持しつつも、時世に応じて少しずつ形を変えながら、成長と拡大を続けてきました。

 

1924年に開催されたパリオリンピックも、ある変化の兆しが現れ始めた大会だったと云われています。その変化とは、「オリンピックにおける、アマチュアリズムの衰退とプロ化の兆し」です。

 

本来、近代オリンピックの主役を担ってきたのは、貴族や裕福な家の子弟でした。暮らしに余裕のある彼らが、自らの身体と精神力のみを武器に、国と出自の家の誇りを懸けて、競技に臨んだのです。

 

しかし、この頃からアメリカなど新興国は、金銭で雇用したプロコーチによる選手強化策を採用。依然としてアマチュアリズムを志向するイギリスなどの国との間に、大きな力の差を示し始めます。

 

日本では82年に公開されたイギリス映画『炎のランナー(ヒュー・ハドソン監督/20世紀フォックス他配給)』は、そんな斜陽のイギリスを背負って、パリオリンピックに出場したアスリートたちの、実話に基づいた物語です。

 

物語の主役を担うのは、英ケンブリッジ大学の学生で、ユダヤ系イギリス人のハロルド・エイブラハム。そして、彼のライバル的存在である、スコットランド出身の人気ラグビー選手で、教会牧師のエリック・リデル。ふたりはその俊足さを買われ、パリオリンピックにおける陸上競技選手の栄誉を掴みますが、ふたりの競技に寄せる動機は、全く異なるものでした。

 

ユダヤ系のハロルドは、幼い頃からイギリス人社会の中で多くの差別を経験、その屈辱を勝つことで晴らしたいと願います。一方のリデルは、自分の才能を「神の恩寵」と感じており、それを発揮することが自分の為すべきことだと信じています。しかし、ふたりの行く手に、旧態依然としたイギリス社会の権威と偏見がのしかかります。ふたりはその重圧を、どう乗り越えていくのでしょうか。

 

東京オリンピックも、さまざまな選手が、さまざまな使命感を胸に抱き、長い歳月を費やしてようやく辿り着いた聖地です。選手たちには心ゆくまで健闘してほしいと願います。また、大きく想定を超えるさまざまな困難に立ち向かい、選手たちの夢の実現のために邁進されたスタッフのみなさんに、心からの敬意と謝辞を捧げます。