「屋根に守られてるんさ、どんな家も人間も」。不思議な老婆が語る家族のかたち。

誰もが、自身のアイデンティティを激しく揺さぶられるような問題に直面する、思春期。多少なりとも、困惑と動揺のなかで日常を過ごしたりするものです。

 

身近な家族や親しい友人に、すべての悩みを相談出来たらよいのですが、実は彼らの存在自体が、問題の本質に関係していることも、少なくはないでしょう。そんな時、あまり自分と関わりのない第三者というのは、よき相談相手として、頼もしい存在になり得る可能性があります。

 

今回ご紹介する映画『宇宙でいちばんあかるい屋根(藤井道人監督/カドカワ配給)』では、悩み多き十四歳の少女つばめが、正体不明の老婆「星ばあ」と、不思議な出逢いを果たします。一風変わった相談相手を得たつばめ。やがて彼女は、老婆の真摯な言葉と導きによって、人生の困難に真正面から対峙していきます。彼女にとって生涯忘れられない、ひと夏の経験のはじまりです。

 

中学生のつばめ(清原果耶)は、優しい両親と三人で暮らしています。お隣さんには、密かに想いを寄せる大学生が住んでいて、つばめは、どのように彼に想いを伝えたらよいのか、思い悩む日々。

 

学校にいても、居心地はよくありません。モトカレとの悪い噂が、学校内で絶えないからです。

 

彼女のつかの間の息抜きの場所は、夜の習字教室が終わった後で上るビルの屋上。街の光に照らされた明るい夜空と、眼下に見下ろす無数の家並。その景色が彼女を現実から解放してくれます。

 

しかし、ある夜の屋上で、彼女は正体不明の怪しい老婆(桃井かおり)と関わりを持つことに。「歳食ったらなあ、なんだって出来るようになるんだよ」。魔女のような不思議な魅力を持つ老婆に、つばめは次第に心を開いていきます。

 

他人の見立てについてアドバイスを求めるつばめに、老婆は「まず屋根を見るところからはじめなきゃだな」と告げます。自分がどんな屋根の下に住んでいるのか、知っている人は強い。自分を分かっているということだから、と。

 

老婆の例えに想いを巡らす彼女は、両親との関係に悩む自身の問題に、「屋根」のイメージを重ねあわせます。漠然とした不安を抱くつばめ。その試練の瞬間が、彼女の間近に迫りつつありました。果たしてつばめは、自分自身が安心して暮らせる「屋根」を、無事に見つけることが出来るでしょうか?