離ればなれに暮らす一族を再び結びつけた絆。その「優しい嘘」の結末や如何に。

あなたが、もしガンに罹患したら。または、あなたの大切な人がそうなってしまったら。あなたはその真実を、いち早くちゃんと知りたいですか?あなたの大切な人には、知らせたいでしょうか?

 

医療技術の進歩により、ガンは一昔前と比べて、「治せる病気」との認識になりつつあります。それでも、やはり「死」のイメージが拭い去れない病気には違いなく、相応の覚悟が、本人や身内には求められます。

 

日本では、90年代あたりから、「ガンの告知」における議論が巻き起こり、患者への告知は、現在では「医師の義務」とされています。そのうえで、しっかりと適切なインフォームドコンセントを進めていく、というのがセオリー。

 

しかし、どうやら国が違えば常識も異なるようで、今回ご紹介する映画『フェアウェル(ルル・ワン監督/A24配給)』では、現代中国における「ガン告知」のちょっと風変わりな事情が、涙と笑いを交えながら描かれています。ちなみにこの映画は、ルル・ワン監督の実体験を基にした内容であるとのこと。それは、映画の驚くべきラストシーンでも明らかになります。

 

幼い頃、家族とともに中国長春からアメリカニューヨークに移り住んだビリー(オークワフィナ)。30歳になった彼女は、一人前の物書きとなるべく日々奮闘の毎日です。

 

彼女は、長春で暮らす祖母のナイナイが大好き。常に携帯電話で互いの生活を報告し合う仲です。

 

ある日、家族が長春に里帰りすることを知ったビリー。日本で暮らす従弟のハオハオが結婚することになり、その慶事を一族総出でお祝いする、とのこと。実に数十年ぶりの、家族の里帰りです。ところが、「お前は行く必要ない」と、母親から言われてびっくり。父親に事情を問い詰めた彼女は、衝撃の事実を知らされます。

 

ナイナイは肺ガンに冒されていて、余命三ヵ月。本人はそれを知りません。ハオハオの結婚は嘘で、祖母に病気を悟られぬよう、一族で最後の再会を果たすのが本当の目的。気持ちに正直なビリーは嘘がつけないから、両親は彼女を連れて行かないことにしたのです。

 

なぜ告知しないのかと問うビリーに、母親は「ガンではなく、ガンに罹患した恐怖に、人は殺される」という中国人の考え方を伝えるのでした。それが祖母にとって正しいことなのか、葛藤するビリー。果たして、この嘘の顛末は、どう決着するのでしょうか。