本当につらい貧困とは何?NYハーレムの街角に響き渡る、力強い歌声に思う。

ここ数年、世界的に大きな問題となっている現象があります。「ロンリネス・エピデミック(孤独の局所的大流行)」です。ライフスタイルの変化や経済的格差の増大、そして、社会的絆の醸成に貢献していたコミュニティ文化の衰退。それらの複合的要因が、社会的孤立を感じる成人の割合を高めているそうです。

 

米国の研究結果では、「親しい友人がまったくいない」と答えた成人の割合は、1990年の3%から、2021年の12%にまで急速に拡大したとされています。この傾向は、わが国でも似たようなものかもしれませんね。

 

そんな米国で、昨年公開されて、大きな好評価を得たミュージカル映画があります。その作品が『イン・ザ・ハイツ(ジョン・M・チュウ監督/ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ配給)』。05年初演の人気ブロードウェイ・ミュージカルの映画化作品です。

 

NYワシントン・ハイツは、主にドミニカ系移民が肩を寄せ合って暮らす街。住民たちは貧しさや差別に悩まされながらも、日々を懸命に生きています。お金はなくても、彼らにはコミュニティの仲間がいます。それぞれの出自が持つ民族の誇りや文化は、彼らの心の大いなる支え。スクリーンに映し出される住民たちは、力強いラテンの歌声とダンスで、人生を謳歌します。そこに「孤立」の影は見えません。本当の裕福さ貧しさは、お金のあるなしでは決まらない。家族や他人との絆さえあれば、なんとか生きてゆける。そんなメッセージを感じる作品です。

 

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ワシントン・ハイツの住人で、ドミニカ系移民のウスナビ(アンソニー・ラモス)は、街で小さな雑貨店を経営しています。お店には、彼が淹れるドミニカコーヒー、そして新聞と宝クジを求めて、近所の顔なじみが毎朝訪れます。

 

ウスナビの夢。いつの日か、父親がかつて経営していたドミニカのバーを買い戻し、故郷で商売を再開すること。幼い頃に育った故郷は、彼には永遠の楽園でした。

 

ある日、猛暑の街を大停電が襲い、住人たちは大混乱。彼の母親的存在だったアブエラも世を去ります。ウスナビの夢、そして想いを寄せるガールフレンドへの恋心。彼ら若者たちの運命の歯車が、その日から大きくまわりはじめました。