先月中旬、米国主導の新しい宇宙開発計画が、本格始動しました。月探査ミッションロケット『アルテミス1号』の打ち上げと、搭載されていた無人宇宙船オリオンの、月軌道周回を果たしての帰還。
この成功により、月面開発プロジェクト『アルテミス計画』は、いよいよ具体的な実践段階へと進みます。地球と月を起点とした、有人惑星探査時代が幕を開けたと云えるかもしれません。
一方で、中国も自前の宇宙ステーション『天宮』を、10月末に完成させました。今後は、月面進出と火星探査の拠点として、パートナー国とともに中国主体の活用が進むと云われています。
80年代後半から米欧日露によって計画され、長らく宇宙開発の国際協調的シンボルとされてきた『国際宇宙ステーション(ISS)』は、あと数年でその役割を終えようとしています。ISSの運用に大きな役割を果たしてきたロシアは、今年のウクライナ侵攻による国際的非難を受けて、二年後には撤退する意向を示唆しました。その後の平和的な宇宙利用の枠組みは、懸念に満ちた不安定さを増しつつあります。
70年代前半の米ソ冷戦時代、その緊張緩和に貢献した宇宙開発プロジェクトが存在しました。『アポロ・ソユーズテスト計画』です。米ソの有人宇宙船、アポロとソユーズが、同日に各々の拠点から打ち上げられ、地球周回軌道上でドッキングするというものでした。テストは成功し、その後44時間に渡って、両国宇宙飛行士の親善活動が行われました。このテストにより得られた技術は、その後のISS建造において、大きな役割を果たします。
そこに至るまでの経緯を記した本として『アポロとソユーズ(ディビッド・スコット、アレクセイ・レオーノフ共著/ソニー・マガジンズ刊)』があります。著者のふたりは、いずれも優秀な戦闘機パイロット・宇宙飛行士で、この計画を支えた重要人物でした。
ディビッド・スコットは71年7月、アポロ15号の船長として月面地質調査を指揮し、『ジェネシス・ロック(創世記の石)』を地球に持ち帰りました。一方のアレクセイ・レオーノフは、65年3月にボスホート2号に搭乗。人類初の宇宙遊泳を成功させた人物です。ふたりは、米ソ両国の威信を賭けたこの計画で初めて知り合い、国や文化、思想信条の違いを乗り越えて、計画を成功に導きました。
スコット飛行士は、自著の中でこのような述懐をしています。「月面到達レースのおかげで、この星(地球)を守り、次の世代へ引き継いでいかなければならないと、われわれは真剣に思うようになった」と。果たしてアルテミス計画は、新たな平和的秩序の礎となるのか。今後も興味関心が尽きません。
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