昭和30年代の活気と喧騒を、幕末期の江戸を舞台に表現した群像喜劇の傑作。

私の座右の銘に「なんとかなる、なんとかする」という言葉があります。偉い人の名言などではありませんし、至極当然の心構えでもありますが、苦しい時に呪文のように唱えると、少しだけ元気と勇気が湧いてきます。

 

今回ご紹介する映画『幕末太陽傳(川島雄三監督/日活製作配給)』も、観るだけでなんとなく身体の奥底から力が湧いてくる作品です。「なるほど、生きるとはこういうことか」と膝を打ちたくなるような痛快さに満ちています。

 

公開されたのは昭和32年。戦後間もない頃ですが、世の中は神武景気から始まる高度経済成長期に突入します。物価は高騰していきますが、個人の収入はさらに物価を上回るペースで上昇。30年代末における10年間の上昇率は物価1.5倍、給料は2.5倍とも云われています。働くことに夢を持てる時代になった一方で、目まぐるしい世の中の変化に戸惑う人も、少なからずいたでしょう。若者のなかには、既成の権力や秩序に反抗する者も現れます。彼らは「太陽族※」と呼ばれました。

 

そんな、混沌としたエネルギーに溢れていた昭和30年代を、江戸幕末期の品川宿を舞台にして風刺化したのが、この「幕末太陽傳」なのだそうです。物語には様々なアウトローが登場しますが、そのしぶとさには圧倒的な生命力を感じます。生きづらさを感じた時のカンフル剤におススメです。

 

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6年後には明治の御代となる江戸幕末期。

妓楼などが立ち並ぶ江戸の繁華街品川宿は、今夜も客と遊女衆のドンチャン騒ぎで大賑わいです。一方で近隣の御殿山に英仏などの公使館が建設中で、街なかを闊歩する外国人と、尊王攘夷派の志士とのトラブルが絶えません。物騒な銃声も響き渡ります。

 

そんななか、小悪党の佐平治(フランキー堺)は、志士が落とした懐中時計を拾います。それは、御殿山焼き討ちの為に品川宿に身を潜ませている長州の志士、高杉晋作(石原裕次郎)のものでした。

 

佐平治は持病の養生も兼ねて品川宿の妓楼に長逗留しますが、実は無一文。ついには白状して、宿でタダ働き奉公をすることに。次第にいろんな人を巻き込んで、見事な才覚で銭稼ぎを始めます。さて、佐平治の運命やいかに。

 

※太陽族:昭和30年代の流行語。既成の秩序を無視して、無軌道な行動をする若者たちを指す。語源は石原慎太郎の小説「太陽の季節」から。