漆黒の一杯は世界に通ず。コーヒーから学ぶ歴史と経済、そして未来。

突然ですが、コーヒーはお好きですか?私にとっては、なくてはならないもののひとつ。特に自宅で仕事をしているときは、傍らにないと落ち着きません。一日三、四杯は飲んでいるでしょうか。但し、味や風味には頓着しませんし、くわしくもありません(笑)。

 

コーヒーは、世界中で愛されている飲み物。なんと一日20億杯も消費されているそうです。なかでも、日本は最大の消費国のうちのひとつ。欧・米・ブラジルの次、4番目に位置付けられています。コーヒーが日本にもたらされたのは江戸時代初期ですが、本格的に庶民に根付いたのは20世紀に入ってから。市民権を得てからの歴史は比較的浅い方ですが、日本独自で発展してきた文化や親しまれ方もあり、興味深いところです。

 

『世界のビジネスエリートは知っているー教養としてのコーヒー(井崎英典著/SBクリエイティブ刊)』は、コーヒーに関する雑学を、世界的バリスタ※である著者の見識も交えながら、コンパクトに収めた一冊です。古くは6世紀頃から伝説が存在するコーヒーの起源。常に世界の歴史とともに歩んできた飲み物ですから、その周辺には、文明文化や歴史経済に影響を及ぼした逸話が山積しています。タイトルに「ビジネスエリート」とありますが、凡人の私でも充分に楽しむことが出来ました。

 

著者の井崎英典さんは、アジア人初のワールド・バリスタ・チャンビオン。日本マクドナルドのコーヒーを人気商品に復活させた立役者でもあります。ちなみにご父君は、福岡県で8店舗を展開されている、ハニー珈琲の井崎克英社長です。私が過去に主宰していた勉強会に、『ハニーおやじ、愛と誠の珈琲ビジネス談義』という表題でご登壇いただきました。ご父君から受け継がれた(と表現すると語弊があるでしょうか)コーヒーへの情熱は、英典さんも苛烈とも云えるものがあり、それは著書からも脈々と伝わってきます。

 

「たった一杯のコーヒーで、人種も、言葉も、肌の色も、国籍も異なる人々と理屈なしでつながることができる。こんな素晴らしい飲み物はコーヒーだけ」と語る英典さん。世界を股にかけて活躍されている、彼ならではの実感でしょう。その目は、コーヒーを取り巻く現在と未来に、注意深く注がれ続けています。一杯のコーヒー。湯気の向こうに存在する物語に思いを馳せて、味わってみるのもよいでしょう。

 

 ※バリスタ: 日本では「コーヒーを淹れるプロ」として認知されている。井崎英典さんは、より広範な意味あいを込めて「コーヒーの編集者」とも定義。