世の中の「ふつう」を疑う。山の上のパン屋がめざす「等価交換」の世界。

世間にはさまざまな「ふつう(常識とかルール)」が存在しますね。それらの多くは、踏襲することで社会秩序の維持や成功に役立つわけですが、なかには時代の変化にそぐわないもの、個人的に受け入れられないものも、数多く存在することでしょう。違和感や理不尽さを感じてはいても、「仕方がない」とあきらめて、眼をつぶる状況は誰にでもあると思います。

 

一方で、自分に無理な我慢を強いるうちに、疲弊して心身の健康を損なう人もよく見かけます。理不尽な「ふつう」に従って世間に馴染むか。それとも、健全な心身を保つことに配慮してわが道を歩むのか。人生で最も悩ましいテーマのひとつかもしれません。

 

長野県御牧原台地。周囲を雄大な山脈に囲まれた(公共交通機関が存在しない)場所で、手作りパンとお気に入り日用雑貨のお店わざわざを営んでいる平田はる香さんは、そのテーマに正面から向き合ってこられた方です。その軌跡を綴った本山の上のパン屋に人が集まるわけ(平田はる香著/サイボウズ式ブックス刊)が、今春上梓されました。

 

子どもの頃からご自身の気持ちに正直で、違和感を感じると見過ごすことが出来なかったという平田さん。今でこそ年商3億円規模の会社経営者ですが、そこに辿り着くまでには、理不尽に思えるような、さまざまな世間の「ふつう」に抗ってきたのだそうです。結果「長いものには巻かれろ」的な生き方を拒み、東京から長野へと移住した彼女ですが、それからは「やりたいこと」を探す人生ではなく、「できることを掛け算」して紡ぎ出す人生であろうと思考転換します。そのなかで思い立ったのが、パン屋さんの起業でした。

 

しかし、パン屋をやるにしても、いきなり店舗を構える資金はありません。「ふつう」お店を開くなら、人通りの賑やかな立地が必要とされますが、そこには大きなコストが掛かります。また、パン屋は一般的には「長時間労働、薄利多売、ロス率高め」とされ、心身の健康や家族の絆を重視する平田さんには、到底受け入れられないことでした。それらの課題から決して目を逸らさず、工夫を重ねた結果が、今の事業の成長に結びついていきます。

 

彼女がさらに目指すのは、健全なサービスのかたち「等価交換」です。作り手と売り手、そして買い手。誰かが一方的に損を強いられない対等な世界。「もの、かね、ひと」の関係性を真摯に問い続けています。