家計管理の第一歩は、「わが家の価値ある支出」を知るところから。

ファイナンシャルプランナー(以下FPと略)として日々お客さまのご相談を承るなかで、常に相談数の上位に位置する案件が、「家計管理」に関することです。つまり、お金を貯めるために、どのような家計のやりくりが望ましいか、というご相談ですね。

 

そのようなご相談内容をお受けしたとき、最初に私は「ご家庭のなかで、『わが家の価値ある支出』についてお話をされたことはありますか?」という問いかけをしてみます。ほとんどのお客さまは「あんまりない」というご回答です。

 

お金を何のために使い、何のために貯めるか。

家計を成り立たせるうえで本質的な問題ですが、家計管理に悩まれている多くのご家庭では、それをいつの間にかないがしろにしている(あるいは家庭内でしっかり共有出来ていない)ケースが多いように思われます。

 

この質問を取り入れるようになったのは、ある一冊の本に出会ってからです。『正しい家計管理(林總著/すみれ書房)』は、初版が9年前に上梓され、その後の読者の反応や実践体験、昨今の金融事情の変化などを取り入れて、昨年夏に新版がリリースされています。

 

著者の林先生は、公認会計士や税理士として、会社の経営や会計をサポートされてきた方で、FPではありません。しかしながら先生は、「会社も家庭も組織という点では同じ」であり、会社における管理会計の仕組みや考え方は、家計管理に充分活かせるものだと主張されています。「それなのに、世に出ている家計管理の考え方やノウハウは、会社経営の考え方となんとかけ離れていることか」と。

 

会社経営には、それぞれに独自の目的や事情があり、お金に対する考え方も千差万別です。抱えている環境や歴史、家族構成に至るまで、ことごとく異なる一般のご家庭についてもそれは同様で、むしろ世帯数という点から云えば、その多様性は会社の比ではないかもしれません。

 

会社の管理会計システムが、その「目的や事情」に応じてカスタマイズされるように、家計管理にあってもそうでなければならない、というのがこの本の主旨です。

 

ただやみくもに節約する、ただやみくもに貯蓄にこだわる。節約や貯蓄が家計管理の「目的」になってしまうと、いずれ疲れてしまいます。家計管理の本来の目的は、「自分と家族が、現在も未来も幸せに暮らすこと」。そのための「価値ある支出」について、まずはご家族と共有することが大切なのだと思います。