毎年のことですが、確定申告の締め切りの時期が迫ってくると、あわてて去年の領収書やレシートを整理しはじめます。事業経費となるものの領収書やレシートですが、一枚一枚を手に取って眺めていると、なかには、その時々の記憶がふいに蘇ったりするものもあります。
例えば、一緒にお茶などをご一緒したお客さまとの会話のなかで、あらためて気づかされたことや、こころを動かされたこと。あるいは、はじめてお邪魔した街角の風景や、お客さまの職場やご自宅での印象的な様子など。ほんの一年やそこらの出来事ですが、こんなに薄っぺらい紙きれのなかにも、実に多くの物語が詰まっていることに、感慨を覚える瞬間があったりするものです。
同様に、私たちが日々の生活で手にしているレシートのなかにも、もしかしたらその人個有のさまざまな人生の物語が、ひそかに息づいているのかもしれません。
『レシート探訪 一枚にみる小さな生活史(藤沢あかり/技術評論社刊)』は、編集者の藤沢さんが、そんな稀有な視点でまとめあげたインタビューエッセイ集です。25編の物語の主人公は、いずれも市井で生きるごくふつうの人たち。彼らが手にするなにげないレシートから、さまざまな人生のドラマが静かに語られます。
人生の節目に接して、あたらしく挑戦し始めたこと。親との愛おしい思い出や受け継いだ習慣。家族の食事への配慮とコミュニケーション。お金の使い方や買い物のやり方についての考え方など。取材と執筆がコロナ禍を挟んでいたこともあり、否応なく変化を強いられて戸惑う人たちの様子も、ところどころに描かれています。
藤沢さんにも、捨てられないレシートがあるそうです。幼いお子さんが、自発的にコンビニでの買い物に、ひとりで挑戦したときのもの。無事に買い物を済ませ、紅潮した顔でお釣りを渡すお子さんの手に握られていた、(たぶん手汗で)シワシワになった一枚のレシート。
日常のなんでもない買い物。そのなんでもないように見える行為は、「その人の意思決定そのものであり、『なにを選ぶか』は、『どう生きるか』のはじまり」と語る藤沢さん。確かにその紙片には、日々の生活や人生に向き合う「その人らしさ」が現れているのでしょう。
さて、あなたは今日、なにを買われましたか?そこには、どのような物語が潜んでいるのでしょうか。
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