宇宙開発は民間企業が担う時代へ。人類は多惑星移住の未来を目指す。

年が明けてからまだ二カ月も経過していませんが、日本の宇宙開発分野では、その間にふたつの大きな偉業が達成されました。

 

ひとつめは、月面探査機『SLIM』による着陸成功。世界で5番目とは云いながら、初の精密着陸を実行し、当初の目標地点から100m以内の誤差で、難易度の高い着陸を成功させました。

 

ふたつめは、次世代国産ロケット『H3』の打ち上げ成功です。現在、各国のロケット開発における大命題は「機体の大型化とコスト圧縮」に集約されます。H3も、その二律背反する命題をクリアすべく、開発が進められてきました。これまでの主力ロケット『H2A』と比較して、塔載重量は5割増しながら、コストは半分。打ち上げ成功により、日本製ロケットに対する世界的需要の高まりが期待されています。

 

今世紀以降の宇宙開発を牽引してきた代表的人物と云えば、米の起業家イーロン・マスクでしょう。昨年発表された彼の公式伝記『イーロン・マスク上下巻(ウォルター・アイザックソン著/文藝春秋社刊)』を読むと、いかに彼の非凡な想像力と情熱が、停滞していた宇宙開発に巨大な風穴を開けたのかがよくわかります。

 

無類のSF好きだった少年時代を経て大学生になった彼は、人類の将来について思いを馳せます。そして、「インターネット・持続可能なエネルギー・惑星間移住」というテーマこそ、自身の力を発揮すべき領域だと考えるようになりました。実際にその三分野において、今もなお果敢に事業展開しているので、当時の使命感がどれほど具体的だったのかが推察できます。特に惑星間移住は、彼にとっても、人類の存続を賭けて手掛けるべき、最大の至上命題となりました。

 

しかしながら、人類は1972年を最後に、月面に降りていません。その後の米スペースシャトル計画も、2011年に運用を終えました。いずれも、膨大なコストの改善を実現出来なかったのが原因です。

 

マスク氏は、人類の火星移住を実現させるためには、ロケットの徹底的なコストカットが必須だと考え、過酷な技術革新に挑戦します。政府の発注方法にも変革を促し、競争による低コスト化を阻害しないよう求めました。その結果、今や世界のロケット打ち上げ回数の半数は、氏のスペースX社が担っています。

 

そう遠くない未来、「ちょっと出張で宇宙まで」なんて日が、本当にやって来るのかもしれません。