現岸田内閣の評判が極めて芳しくない中で、今年の秋にも解散総選挙があるのではないか、という見方が囁かれています。
もし総選挙ともなれば、争点の中には「年金問題」が必ず浮上してくるでしょう。一部の野党からは、「年金納付期間の5年延長」問題に絡めて、2004年度年金改革のキャッチコピーともなった「(年金制度の)100年安心」に対する疑義を追及する方針が、既に打ち出されています。
私たちの人生設計に大きく関わる年金問題は、今まで何度も、政治や政争の道具として利用されてきました。良くも悪くも、その結果が今の年金制度のかたちです。
国民の立場からすれば、40年間の長期に渡って安くはない保険料を納め続けるわけですから、出来るだけ多く長く、給付を受けたいのが人情というものです。
しかしながら、そのお金は湧き水のように自然に湧いてくるわけではありません。限りある財源をどうするか、(老齢)年金という仕組みをどう捉えるのかは、政治は当然として、国民も真剣に考えるべき大切な課題です。
福祉国家の先進国ともいうべき北欧諸国は、ある時期から年金問題を「政争の道具」としないことを国民の合意で取り決め、結果として自分たちに相応しいとされる年金制度を構築することが出来たと云われています。
大きな選挙のたびに聞こえてくる、政治家の耳障りがよいだけの提案を鵜呑みにしない。すべてが手遅れになる前に、まずは私たち自身が年金の実態を把握し、課題について想像力を巡らせること。それが大切なのではないでしょうか。
今春上梓された『ルポ年金官僚 政治、メディア、積立金に翻弄されたエリートたちの全記録(和田泰明著/東洋経済新報社)』は、「年金制度の65年史」とも云える内容で、制度の意義を考える意味でも、非常に参考となるものでした。また、制度とその周辺に蠢く利権を俯瞰してみたい方にも、お薦めします。
年金制度の草創期には、多くの優秀な人材が、命を削るようにして、制度構築に関わっていたことも記されています。それほどまでして、彼らが年金制度に託した思いとは、一体なんだったのでしょうか。
年金改革は、「極めて複雑な利権が絡む壮大な多元連立方程式」。かつての年金官僚が本書に残した言葉です。だからこそ、自分が見たいものだけを見て論じてはいけない。そんな思いを新たにしました。
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